フランスの田舎で暮らす

土野繁樹の歴史散歩

 パリは燃えているか?(13) その2

シャンゼリゼ大通りを凱旋行進するドゴールと随行団 1944年8月26日 Aramy 筆者 は『パリは燃えているか?』は、20世紀のノンフィクションの傑作だと思う。この本の「感謝の言葉」を読んでいると、二人の 著者が 3年間をかけて取材した内容に圧倒される。二人…

パリは燃えているか?(12)その1

パリの象徴 エッフェル塔 Wikipedia 今年の夏は4年間にわたるナチスの占領下にあったパリが、ドゴール将軍の自由フランス軍と米軍によって解放された77年目の年になる。2年前の75周年記念日には、国家行事として大々的に行われメディアはパリ解放特集を組…

ノルマンディ上陸作戦の影のヒーロー:MI5の二重スパイ(11)

ノルマンディ・オマハ海岸に上陸する米兵 Robert Cappa撮影 Wikipedia 1944年6月6日、ナチスを打倒するために米英カナダを中心にした連合軍が敢行した、77年前のノルマンディ上陸作戦は史上最大の作戦と呼ばれる。ドワイト・アイゼンハウアー最高司令…

歴史探訪~真珠湾攻撃の狂気の決定(10)

真珠湾上空から米国海軍太平洋艦隊を攻撃する日本海軍の航空隊。 イラスト Wikipedia 筆者は昭和16年に産声をあげたから、真珠湾攻撃の年に生まれたことになる。月日はめぐり、今年はあの奇襲攻撃(1941年12月8日)から72年目になる。大学生にな…

ドルドーニュ便り~アルファロメオ( 9 )

アルファロメオ こちらで暮らしはじめるまで、わが家は車とは無縁だった。結婚以来、共稼ぎで東京と横浜で30年暮らしたが、自家用車を持ったことはなかった。そもそもわたしには、運転免許がなかったのだから持ちようもない。ところが、フランスの田舎への…

ドルドーニュ便り~春が来た(8)

わが家の春景色 やっと長かった冬が終わって、サン・ジャン・ドコール村に待ちに待った春がやって来た。当地で暮らしはじめて一番寒く、毎日のように雨が降る異常な冬が去り、無風、気温20度の正真正銘の春日の今日は心が弾む。納屋から取り出した黄色いデッ…

ドルドーニュ便り~日仏ふたりの飛行家(7)

『わが長距離飛行:パリ―東京』の挿絵 ドルドーニュの田舎道を車で走るのは爽快だ。樫,栗、松などの樹に囲まれた曲がりくねった緑の道を、わが家から15分も走ると、ドアジーさんの館がある。館の正面にある壁は長さ70m、高さは5m、両端に黒い尖塔が…

ドルドーニュ便り~仏ワインを救った米国(6)

ドルドーニュの葡萄 Department de la Dordogne こちらで暮らしはじめるまで、わたしはワインについての知識はほとんどなかった。ボルドーやブルゴーニュと言われてもピンとこなかったし、味についても無頓着な野暮天だった。ところがドルドーニュ県はフラン…

ドルドーニュ便り~旧鉄道路の散歩 (5)

鉄道開通 Histoire de la France rural (Seul)より フランスで初めて乗客をのせた蒸気機関車が走ったのは 、1832 年のリヨン~サン・テティエンヌ間である。上の絵は、当時ののどかな風景だ。パリ~ボルドー間が開通したのは 1853 年、パリ~マルセイユ間が …

ドルドーニュ便り~ディドロの『百科全書』 (4)

16世紀末に建った村の城 「この肖像はどなたですか」と尋ねると「ルイ16世ですよ。8代前のわたしの祖先で将軍だったド・ボモン伯爵が、国王からもらったものです」とマルトニ城の跡継ぎティエリ・ド・ボモンさんは言った。フランス革命でギロチンの犠牲にな…

ドルドーニュ便り〜人生に喝采(3)

サン・ジャン・ドコール村の散歩道で 「会社を辞めて、フランスの大田舎で暮らすことにしたよ」とわたしが友人に明かすと、彼は「君のような都会で忙しい仕事をしていた男が、そんなところへ行くと退屈で死んでしまうぞ」と心配してくれた。大学の後輩からは…

ドルドーニュ便り〜年の瀬(2)

わが家の台所の壁にかかっている、逆回りで動くこの時計を奥方が買ったのは、こちらで暮らしはじめたころのことである。日本から遠路やってきた友人はたいてい「なぜ?」と尋ねる。「これは、時間に追われる東京にさよならをした象徴みたいなものよ。時間が…

ドルドーニュ便り-芸術誕生の地(1)

サン・ジャン・ドコール村 筆者が上記のタイトルで2007年、白水社のふらんす誌に12回寄稿したのが、暮らしシリーズの事始めであった。これが好評で、同誌のインターネット版で番外編として3年間続 け、その後も、2012年からLGMIと一緒に3年間継続した。 内容…

KGBの二重スパイ:モスクワ脱出か処刑か

脱出計画が始まった瞬間 The Times モスクワのアパートに到着したゴルディエフスキーが発見したのは、ドアが開かないことだった。3番目のカギを使ったのはKGBの捜査班に違いないと思った瞬間、彼は背筋が寒くなった。自分の運命はこれで終わりだと思った。逮…

KGBの二重スパイ;米ソ核戦争を止めた男 (その2)

ソ連の水爆実験(1955) You Tube 1978年夏、デンマークからモスクワに帰任したゴルディエフスキーは、第3局の部長ヴィクトル・グルミコに離婚して結婚することを報告した。すると、彼は「これですべてが変わるな」と返答した。やはり、KGB文化では離婚…

KGBの二重スパイ:米ソ核戦争を止めた男(その1)

世紀の二重スパイゴルディエフスキー(1976年撮影) AP 『 スパイと裏切り者: 冷戦最大の諜報』(2018)を読んだ。この本はまだ訳がなく原題は“The Spy and the Traitor:The Greatest Espionage, Story of the Cold War“である。 ベン・マッキンタイアが書…

カミュが愛した女優カザレス

カミュとカザレス 彼女のアパートで Paris Review 1944年 6月5日、アルベール・カミュは30歳で、表の顔は舞台の演出家、裏の顔はレジスタンス紙『コンバ』の編集長だった。マリア・カザレスはスペイン首相の娘で将来を嘱望される21歳の女優だった。 その日、…

カミュの哲学:非暴力の平和主義者

アルベール・カミュ Henri Cartier-Bresson 「おそらく、どの世代も世界を作り替えることに責任を感じていることでしょう。しかしながら、今の世代の場合は世界を作り替えることではないのです。その任務のもっと大きいもの、つまり世界が自分自身を破壊して…

米国憲法を守る移民:トランプ弾劾へ

ドナルド・トランプ Spencer Platt/Getty Images 筆者はCNNテレビの実況中継で、米国大統領ドナルド・トランプの弾劾を調査する、下院情報活動委員会の11月の5日間のやり取りを見た。午後3時から毎日4,5時間、次々に展開される新証言に興奮し、アメリカ…

トゥーンベリ:気候危機のヒロイン

グレタ・トゥーンベリ「このまま放置することが、わたしには出来ない」The Guardian 拒食症、いじめ、そして復活 グレタ・トゥーンベリはストックホルムでオペラ歌手の母親と俳優の父親の間に生まれ、妹が一人いる。ピアノ、バレエ、演劇を学び、学校の成績…

香港:民主派の反撃

香港議会をとり囲む民主派の大デモ Wikipedia 100万人の香港市民が6月9日に「逃亡犯条例」の撤廃を求めて平和的デモを行ったとき、その要求は唯その一点だけだった。しかし今や、行政長官の直接選挙を要求する運動にまで発展している。この要求は運動の核心…

司馬遼太郎とドナルド・キーン

司馬遼太郎 文藝春秋 ドナルド・キーン Wikipedia 中央公論社の二人の対談『日本人と日本文化』は、実に面白い本だ。初版は1972年だから、いまから半世紀前のものだが、内容はさすがである。雄大な構想で歴史と人物を描く司馬と、日本文学の極めてすぐれた研…

ドナルド・キーンさん ありがとう

縁台で読書するキーンさん ドナルド・キーン「お別れの会」 『ドナルド・キーン自伝』は彼の84歳の作品である。ニューヨークのブルックリン生まれの天才的少年キーンは、18歳のとき『源氏物語』の翻訳を読んで感激する。その頃、1940年夏、ヒトラーの欧州制…

米中激突 : ニューヨーク・タイムズ紙が伝える

フィリップ・P・パン アジア総局長 写真撮影ブライアン・デントン 西側は中国のアプローチがいずれ失敗するだろうと思っていた。しかし、それは見事に当てが外れた。そして、今なお待ち続けている。 過去のパワー:長征の制服を着る航空宇宙界の労働者 莫干…

マクロンを救え、ヨーロッパが危ない

暴徒によって破壊されたフランスの象徴、マリアンヌ像 AP エマニュエル・マクロンはヨーロッパの救世主だった。リベラル・デモクラシーの旗手として、ポプュリズムの流れに敢然と立ち向い、EU再興のヴィジョンを掲げる、フランスの希望の星だった。その若さ…

ウッドワードが描くトランプの実像

ウッドワード(右)の最新作の表紙 Wikipedia 筆者はウッドワードの最新作“Fear:Trump in the White House”(恐怖:ホワイトハウスのトランプ)が刊行された9月11日、キンドル版で読み始め3日かけて読んだ。これはおどろくべき本だ。 プロローグから仰天する…

魔女の狩人  トランプvs情報機関

The New Yorker 2018・9・3号 Barry Britt この諷刺画は米国のニューヨーカー誌の最新号のカバーである。これは、ロシア疑惑を調査する特別検察官ミュラーが、トランプを追い詰めている光景だ。8月21日は、トランプにとって最悪の日となった。 ミスター・…

英王室に新風 しかし、政治はどん底

ロイヤル・ウェディング ハリー王子とメーガン Gareth Fuller AP 英王室のハリー王子とマークル・メーガンの結婚式は5月のそよ風のように爽やかだった。ブレグジット(英国のEU離脱)で英国民が二つに分裂し、その行く先に暗雲が漂い重苦しい空気が支配す…

英国EU離脱の大誤算

「ヨーロッパにはもううんざりだ」 The Guardian Illustration by R Fresson 筆者はパリから南へ下り500キロ、中世の教会と城があるのどかな村で暮らしている。この国の大多数のコミュニュティと同じように、村役場にはフランスの三色旗とEU旗が掲げられて…

カズオ・イシグロの肖像

Reuter/Mike Segar 「イシグロのノーベル賞記念講演がはじまったわよ」と居間の妻から声がかかった。ストックホルム大学で学び、スェーデンの経済紙「ダーゲンス・インダストリ」の東京特派員だったヤードは、スウェーデン人だからノーベル賞への関心が高い…