フランスの田舎から世界を見ると

土野繁樹の21世紀探訪

トゥーンベリ:気候危機のヒロイン

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グレタ・トゥーンベリ「このまま放置することが、わたしには出来ない」The Guardian

 

拒食症、いじめ、そして復活

 

グレタ・トゥーンベリはストックホルムでオペラ歌手の母親と俳優の父親の間に生まれ、妹が一人いる。ピアノ、バレエ、演劇を学び、学校の成績も優秀だった。彼女は8歳のとき学校で、溶ける北極の氷、北極グマの運命、プラスチックで苦しむイルカの姿を見た。「わたしはこの光景に心を奪われた。このことばかり考えていた。そして悲しかった。これらの写真はわたしのアタマから消えなかった」と語っている。

彼女はクラスメートの多くが、携帯電話やファッションに夢中なのに、まったく関心を示さなかった。父親のスバンテはその頃のグレタを「学校で彼女は孤立し、非常に寂しそうだった」と言う。11歳のグレタはひどく落ち込み、学校へ行くのをやめた。彼女が話す相手は家族とひとりの教師だけだった。

彼女は16歳というより12歳くらいの体格で小さい。これは11歳のときひどい拒食症にかかり2月で10キロも痩せたことが原因だろう。両親の共著『こころの風景』によると、二人は必死の思いで、グレタに食べることを勧めたが、効果なしだった。そこで、母親のマレーナは台所に毎日食べたものとかかった時間を張り付けて、グレタに食べることの重要性を思い起させた。はじめは「朝食:バナナ3分の1:53分」だった。

病院の診察、カウンセリングが続き「バナナ:25分」「25グラムのライスとアボカド:30分」と回復していき、最後に鮭やコロッケとなり食欲が戻った。学校にもどり、希望が見えてきた。グレタの記憶力は抜群で映像記憶力とでもいえるもので、世界の都市名とその主要点をすべて覚えていて、成績はトップクラスだった。

しかし、彼女は学校で情け容赦のないいじめにあっていた。両親がそれを知ったのはクリスマス・パーティーで、クラスメートが父親のいる前で、グレタをからかったからだ。家に帰りグレタは両親に、まるで他人のことであるように、イジメ―叩かれる、仲間はずれ、集団で侮辱する―の実態を話した。彼女がトイレに隠れているのを、むりやり校庭に引っ張り出されたこともある。学校は、彼女があいさつをせず態度が変だからだと、グレタのせいにした。彼女は「友達なんかいらない。みんな意地が悪い」と母親に言った。

その後しばらくして、ストックホルム拒食症センターから、神経精神医学のテストの結果がでて,彼女の症状はアスペルガー症候群であるとの診断がでた。アスペルガー自閉症と特定の分野に強いこだわりを示す症状がある。母親にとって、これは心配の種ではなく、病名がはっきりし森のなかから出たので、回復の道をたどればよいという安心感だった。

病院からの帰り道でもうひとつ、母親は突然気付いたことがある。春の日に娘と二人で歩きながら、今日からグレタが食べるもののカロリーを心配しなくてよい、という素晴らしい贈り物だった。

 

「何かできるのではないか」

 

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「気候のためのストライキ」に入った金曜のグレタ           Le Mondek

 

グレタは、気候変動のことを勉強することが、回復に役立ったと言っている。学校を休んでいた数か月間、彼女が両親に語った心配と恐怖は環境が原因だった。「何もやることがなかったので、われわれは環境のことを話しあった。胸のなかにあることを、吐き出して気分がよくなった」。グレタは集めた写真、グラフ、フィルム、記事、報告書を両親に見せて説明すると、熱心に聞いてくれ、よく分かったと言った。「このとき、わたしは何かできるのではないかと思った」という。

昨年の8月20日、グレタが「気候のための学校ストライキ」の看板を掲げて,スウェーデン議会の前に立ったとき、彼女は孤立無援であった。クラスメートの何人かに声をかけたが、断られたのだ。8歳のとき気候変動に関心を持って以来、彼女は勉強を続けてきたのだが、うつ病が治ってから「わたしは自分自身に約束した。何かを変えようと」と語っている。

今年も地球温暖化が進み、世界各地で異常な高温、豪雨、ハリケーン現象が多発している。2015年の「パリ協定」では2050年までに気温上昇を2度未満、できれば1.5度まで抑えることで妥結したが、いまや昨年10月に公表された国連の「気候変動に関する政府間パネルIPCC)」の報告書が、2030年までに1.5度まで抑えないと自然災害のリスクも高まるとの衝撃的な警告がだされ、現在では1.5度目標の順守が必要との考えが世界に広がっている。待ったなしの「地球が危ない」との緊急報告にグレタが激しく反応したのである。

世界の一流の気象学者など1000人が参加して書いた報告書には、南極大陸グリーンランドの氷が溶けて水浸しになる島の国、太洋が温かくなるとサンゴ礁や魚類を破壊し10億人のタンパク源が消滅する、旱魃や洪水による大量の移民がでるなどの被害の予測がされている。これは以前から言われていたことだが、人々はその気候変動の激しさを実感し、それが事実であることからを知ることになったのだ。

彼女は2018年の米国のパークランド銃乱射事件のあとの銃規制運動にヒントを得て、金曜日のストライキ運動やソーシャル・メディアで排気ガスを止めることを政治家に訴えていた。それが徐々に浸透していき、昨年12月、ポーランドで開かれた国連のCOP24会議に出席して以来、一躍知られるようになり、彼女のツィツターへのアクセスが4,400%、612.000人に増えた。彼女はそれを「学校ではほとんど話をしたことがないのに、今や世界と話をしている」と言っている。

事実、世界は彼女の言うことは聞いていた。今年の3月15日に彼女の訴えに賛同した世界の2,200都市の人々130万人が「未来のための世界気候ストライキ」に参加し立ち上がったのだ。その前日、ノルウェーの議員がグレタをノーベル平和賞の候補者に推している。世界気候ストライキには旱魃と砂漠化で苦しむウガンダの人々、大型ハリケーンに襲われたセント・トーマスの若者も参加した。18歳の青年は「この問題はほってはおけない。われわれの未来のことだ」と言っている。

トゥンベリは、アスペルガーは自分の決意に影響していると言う。「世界を違う眼で見ている。わたしには嘘を見抜く力がある」「妥協がきらいだ。わたしにとって、賛成か反対かしかない」と語る。また、彼女の過去の病気、(うつ病、心配、拒食症)を語る開けっぴろげの態度に、支持者はロール・モデルと考え親近感を覚える。

 

「われわれの家はすでに燃えている」

 

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ダボスで抗議するグレタ(左端)と仲間                The Guardian

 

汽車の旅はレトロの香りがする。飛行機に比べると時間がかかるけれど、優雅な味わいがあるからだ。しかし、彼女にとっては飛行機がまき散らす温室効果ガスに比べれば、時間コストはたいした問題ではない。「グレタ効果」なのか、ドイツとスウェーデンでは鉄道利用者の数が前年より増えている。スウェーデンでは“飛行の恥”という言葉が生まれたほどだ。家庭内のグレタ効果はてきめんだ。両親は肉食をやめ,太陽光パネルを屋根に付け、母親は飛行機に乗らなくなった。マレーナは有名なオペラ歌手で海外公演は飛行機が必要だったのでライフ・スタイルの大きな変化だった。

普通はキャンペーン中に学校にいかないのは解放感があるのだが、彼女の場合は学校で一生懸命に勉強することがオアシスになる。ロンドンでの会合が終わり、汽車がストックホルムに到着し、グレタはいったん家に戻り朝食をとり学校へむかった。彼女が学校で、フランス語の動詞の変化を学ぶとき、音楽の時間にいろいろな楽器で音をだすとき、外の世界は存在しない。

家庭での生活は平凡だ。彼女は時間があると、菜食主義料理をし二匹の犬と遊ぶ。学校の休憩時間に森に囲まれた校庭で彼女は「ときどき、なにが外の世界で起こっているのか知らない感じになる。ここでは、わたしは静かな少女だ。そして、外では有名だ」とその不思議な生活を語った。

2月、グレタは32時間をかけて汽車の旅で、スイスのダボスの「世界経済フォーラム」の会場に到着した。世界のリーダーが集まって、毎年その年の主要テーマを討議する会場で、気候変動についての話をしたのだ。彼女のスピーチは強烈だった。

グレタは廃棄ガスと地球温暖化で「われわれの家はすでに燃えている」と言い「ダボスのような場所では、人々は成功物語を話したがる。しかし、あなたがたは、財産が増えるということは、とんでもない高い代償を払って気候変動を悪化させていることに気づくべきだ」と語った。「廃棄ガスを止めるのか、それを止めないのか。1.5度以上の温度上昇を止めるのか、放置するのか、人類の存続をかけた選択だ。2つの間に灰色の選択肢はない」「わたしはあなたがたにパニックになってほしい。わたしが毎日感じている恐怖を感じてほしい」と訴えた。

筆者には、この訴えがどれほど参加者に伝わったのかはわからない。しかし、会議の主催者によると、世界のリーダーは1,500機のプライべート・ジェットでやってきたが、毎年、競争相手を意識して、より大型で豪華な機種が増えているという。「影響力があればあるほど、個人の責任が重くなる」というグレタの言葉を、参加者はどう考えているのだろう。

グレタが言行一致で気候危機の中心人物になったのはたしかだ。彼女が影響をうけた『これがすべてを変える:資本主義と気候』の著者ナオミ・クラインは「彼女を分類するのは非常にむつかしい。なぜか。彼女はお墨付きを求めていないので、容易に感銘することはない。だから、人々は彼女をどう扱っていいかわからないのだ」と言う。

 

フランシスコ教皇の激励

 

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フランシスコ教皇、グレタを激励する               Vatican Media

 

3月の世界中130万人の支持ストライキの波に乗って、4月にグレタはストラスブール欧州議会、イタリア議会で演説をし、英国へ着き議会でいつもの遠慮のない議論を展開した。英国政府の北海油田の拡大とロンドン空港の拡充、新規の石炭産業開発は「まったく馬鹿げている」と批判した。

150人の議員とアドバイザーを前にして、彼女はスピーチの途中で「聞こえてますか」と尋ねた。グレタはマイクロフォンを軽くたたいて故障していないかを見た。しかし、それは叱責だった。聞いているとは思えない議員がいたからだ。しばらくして、彼女はもう一度繰り返した。「わたしが言っていることが理解できますか。英語は大丈夫でしょうか。マイクロフォンはついてますよね」。笑い声が聞こえた。気まずさからか、ユーモアととったのかはわからない。しかし、彼女はまったく笑っていなかった。ここで、グレタは気候危機について「破滅が近づいている。われわれの世代がこのつけを背負わねばならない」と言い、彼女はその原因を「あなたがたが行動しなかったので」と語った。

この旅でグレタはローマのバチカンでフランシスコ教皇と面会した。笑顔で彼女を迎えた教皇は「頑張って、続けてください」と言った。その日、彼女はツイッターで「気候危機についてこれほど明快に支持していることを感謝した。すると教皇は“続けてください“と言った」と書いている。彼女にとって、教皇のこの言葉は素晴らしい激励になったことだろう。

「スピーチはすべて自分で書くけれど、協力はしてもらう」と彼女は言う。父親は時々すこし和らげようとするという。グテレス国連事務総長の前でのスピーチで「もし、われわれに未来がないとすると、学校に行くのはむだではなかろうか?」と草稿に書いた。すると、父親は心配して、やめたほうがいいと言うので削除した。しかし、実際にスピーチをやっているとき、思い出してそれを入れたという。彼女は「父親は何もできなかったわ」と笑って言った。

グレタが金曜日の「学校ストライキ」を始める直前、『心の光景』の発行人から父親に電話があった。その頃、トゥンベリ一家はロンドンでバカンスを終え、電気自動車でストックホルムに長旅をする準備をしていた。発行人は環境については“希望”がもてる本にしてほしいと言う。父親のスバンテは「希望はまったくふさわしくない言葉だ。現状から目をそむけてしまうことになる。すでに、家が燃えている」と言い、地球が危ない状況を説明した。帰路、トゥンベリ家の車はロンドンの大交通渋滞に巻き込まれ、父親スバンテは泣き始めた。その時の心境を彼は著作で「世界は10億台の車で溢れている。われわれが太陽光の屋根をいくらつくっても、お互い励ましあっても間に合わないことを理解したのだ。われわれに必要なのは革命だ。人類の歴史のなかで最大の革命がいる。それも直ぐかからねばならない」と書いている。

 

世界400万人の大デモ

 

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世界最大の気候ストの日、シドニー の若者           Paul Braven / EPE

 

8月の終わり、スウェーデンから16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリがニューヨークに到着した。グレタは現代のジャンヌ・ダルクだと呼ぶ人々もいる。彼女は、飛行機は廃棄ガスを噴出しすぎるとの理由で、2週間かけて大西洋を太陽光で動く小型ヨットでやってきた。TV局の“ディリー・ショウ”で司会者が、この街の第一印象はと聞くと、彼女の答えは湾に入ると「突然、悪臭がした」だった。

グレタは社会的儀礼の信奉者ではない。彼女は昨年の8月、毎週金曜日にストックホルムスウェーデン議会前で座り込みを始めたが、そのとき通行人に渡すビラには次のような言葉が書かれてあった。「あなたがた大人は、わたしの未来を滅茶苦茶にしようとしている」。この表現は彼女の立場を非常にうまく描いている。気候変動の場合、政治的な合意と、科学的な必要性のギャップはあまりに大きいからだ。科学を信じる彼女にとっては、政治家の対応があまりに遅すぎる、これでは大変なことになると思っている。

グレタは7月のフランス議会での演説で「あなた方は、自分たちのこどもをこんな苦境に追い込んでいるのに、現実をこのような形で表現することを拒むのは、成熟していないからかも知れない。われわれはこの不快な現実を話す悪者になる。誰もそれをやらない、敢えてやろうとしないからだ」と語っている。

高校生を中心とする若者の反乱の火を付けたトゥンベリは、ニューヨークのバッテリィ公園で数千人の支持者を前に「われわれから奪われた未来のために、なぜ勉強しなくてならないのか。みんなは安全な未来を望んでいる。その望みが大げさなことなのか」、「ストライキに多くの人々が参加したことで、リーダーに圧力がかかり、これが新たな社会転換になることを期待している」と語った。そしてAFPは、1年前に一人でストックホルム議会の前で抗議のビラを配っていたことを思えば「今日起こっていることは、考えてもいなかったことだ」と報じている。

国連本部で各国首脳が参加する「気候行動サミット」が開催される前、9月月20日に185か国の都市で400万人の高校生を中心とする若者が大人の協力を得て、「世界気候ストライキ」を行った。ソロモン諸島の水位の上昇、南アフリカの毒性の産業廃棄物、インドのプラスチック廃棄物、オーストラリアの石炭開発など各国が抱える問題への反対だった。中国はデモ禁止でストはなく、日本の参加者はわずか5,000人だった。 地球の危機が迫っているのに、行動をしない政治家への必死の抗議行動だった。これほど多くのこどもと若者が政治家へ行動を促すのは、世界ではじめて出来事だった。27日、再び世界中でストがあり、200万人が環境悪化への抗議をし、政治家への圧力かけた。その日グレタは、カナダのモントリオールで史上最大の50万人の抗議デモに参加している。

 

国連演説で各国首脳を糾弾

 

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グレタ、首脳を前に痛烈なスピーチ      Stephanie Keith

 

9月24日、グレタは、国連の総会で世界の大統領、首相、国連幹部など数百人を前に、「気候行動サミット」演説をした。これはわずか495語で4分30秒のものであった。彼女は、はじめは涙ぐみ、これまでより激しく政治家を糾弾した。以下はその要約である。

「わたしから皆さんへのメッセージは、それは『わたしたちは、あなたたちを見ている』ということです」

「多くの人たちが苦しんでいます。多くの人たちが死んでいます。すべての生態系が破壊されています。わたしたちは大量絶滅の始まりにいます。それなのにあなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くといういうおとぎ話ばかり、恥ずかしくないのでしょうか!」

「30年以上にわたって、科学ははっきりと示してきました。それに目をそむけて,ここにやって来て、自分たちはやるべきことをやっていると、どうして言えるのでしょうか。必要とされている政治や解決策はどこにも見当たりません」

二酸化炭素排出量を10年で半分減らしたとしても、地球の平均気温を1,5度以下に抑えるという目標を達成する可能性は50%しかありません」

「あなたがたは50%でいいと思っているかも知れません。しかしその数字には、ティッピング・ポイント(小さな変化が集まって、大きな変化を起こす分岐点)やフィードバックル―プ(フィードバックを繰り返して改善していくこと)、空気汚染に隠されたさらなる温暖化、そして環境正義や平等性は含まれません。そして、わたしたちや、わたしたちの子供の世代に任せっきりで、何千億トンもの二酸化炭素を吸っている。わたしたちは50%のリスクを受け入れられません。わたしたちは結果とともに生きなければいけないのです」

「『気候変動に関する政府間パネル』が発表した、地球の温度上昇を1,5度以下に抑える可能性を67%にするために残っている二酸化炭素の量は、2018年1月の時点で420ギガトンでした。今日、その数字はすでに350ギガトンまで減っている。なぜこれまでと同じやり方で、そしていくつかの技術的な解決があれば、この問題が解決できるかのように振る舞まっていられるのでしょうか。現在の排出量レベルを続ければ、残っているカーボン・バジェット(温室効果ガス累積排出量の上限)は、8年半以内に使い切ってしまいます」

「しかしこの現状に沿った解決策や計画はつくられないでしょう。なぜならこの数字は、とても居心地が悪いから。そしてあなたたちは、それをわたしたちにはっきりと言えるほど十分に成熟していない」

「あなたたちは、わたしたちを失望させている。しかし、若い世代はあなたたちの裏切りに気づきはじめています。未来の世代の目は、あなたたちに向けられている。もしあなたたちが裏切ることを選ぶのであれば、わたしたちは決して許しません。わたしたちは、このままあなたたちを見逃すわけにはいかない。今この場所、この時点で一線を引きます。世界は目覚めています。変化が訪れようとしています。あなたがたが望もうが望むまいが。」(ハフポストの全文翻訳から抜粋)

グレタは「ありがとう」と言って席についた。

世界の政治家への痛烈で辛辣な挑戦状だった。一見、傲慢にも聞こえるが、よく考えてみるとこれがグレタの正直な気持ちだった。時間は10年しかないのに、世界の政治家は国連の気候変動に関する科学者のIPCCの緊急報告への回答をしていない。世界が危ないとき、政治家は素早く総合的対案を作り、決断をすべきなのになにもしていない。このままでは、21世紀を生きるわれわれの将来は不安だという点を、訴えたかったのだ。

 

グレタの戦いは続く

 

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グレタとトランプの「世紀の対決」               ABC-CBS News

 

9月中旬、グレタとその仲間は米議会の気候危機タスク・フォースの委員会に招待された。議員たちは彼らの仕事ぶりを絶賛し、なにかアドバイスはないだろうか、と聞いた。するとグレタは「アドバイスなら、科学者をここに呼んで知恵を借りたほうがよい」と言いIPCCの報告書を渡した。その日集まった議員は最も活動家に理解のある民主党の人々だが、パリ協定に反対するトランプの共和党の抵抗にあって、ほとんどなにもできない。

トランプは環境法案の規制を緩和し、石油、石炭増産を推進する歴史を大逆行する大統領だが、グレタの国連演説のビデオを付けて「彼女は明るく素晴らしい未来を夢見る、とても朗らかな女の子らしい。ほほ笑ましい姿だ」とツイートした。翌朝、グレタは動じることなく自分のことを「彼女は明るく素晴らしい未来を夢見る、とても朗らかな女の子」と書き軽やかに反撃した。スウェーデンの新聞は、グレタ700万人、トランプ500万人のトウィツターのフォロワーがあるという。

グレタは演説の日に、国連総会の会場入り口で記者に囲まれたトランプの姿を見た。少し離れたところから、彼を見つめる目は鋭かった。二人の「世紀の対決」を象徴するような場面だった。

気候危機を止めるために、「何かをやらなくては」と思いつめ、ひとりで立ち上がって1年、彼女の果たしている役割は特筆に値する。グレタはうやむやな大問題をあきらめることなく、緊急課題として世界のトップの問題にした。そのメセッージは“科学はこのままでは地球の破滅を予測している、政治家が取り組まなければ破局が待っている”との直截なもので、これが21世紀生まれを中心に支持をうけている理由だ。

グレタが現れる前は、人々は心理的、あるいは政治的な理由で、人類の存亡がかかっている問題より緊急課題に忙しく、よりやさしい問題に目を向けていた。われわれが持っているすべての手段を行使して、直ちに排気ガスを抑制すべきだ、という主張する人々の声は届かなかった。

BBCの環境主任編集委員ジャスティン・ロウラットは、グレタが大西洋を渡るヨットの出発前に、そこでグレタに会ったことがある。彼女が誰かの操り人形で、暗い人物だというイメージは吹き飛んだ。その時、彼女は2週間の旅の間で何を国連演説で話すかを考えるつもりだと言い「危機が迫っていることを伝え、サミットの参加者こそが責任者なんだと言いたい。リーダーシップを見せよ」と語ったという。実際、そのとおりになった。

グレタ人気が高まるなか、彼女へのいわれのない批判も多い。イギリスの大衆紙『サン』やオーストラリアの『ヘラルド・サン』紙が精神病疾患を抱えた人物の反対運動だと非難するが、すれは空想にすぎないとロウラットは言う.。グレタ自身はアスペルガー症候群を、雑音を排除し、問題の中心が見えるようになる”超能力”と呼んでいる。「人と違うことは病気ではない。現時点で手に入れられる最も科学的なものは意見じゃない。事実だ」と彼女は言う。彼女の気象についての科学知識は、舌を巻くほど詳しいという。

彼女の演説は丁寧な拍手で迎えられたが、各国首脳は彼女が要求する抜本的な改革には手を付けていない。それにもかかわらず、グレタの戦い続く。彼女をカバーにした雑誌GQ誌のスチュアート・マクグルクは「あなたは希望をいだいていますか」と尋ねた。すると彼女は次のように答えた。 

「わたしは楽観論者でも悲観論でもない。リアリストだ。最悪をさけるために、物理の法則にしたがって対応すれば助かるだろう。しかし、そうでなければ助からないかも知れない。しかし、変革をするために、すべての手段を使って必要なことをやらねばならない。それも、ベストを尽くすだけでは足りない。一見、実現不可能だと思われることをやる必要がある」

筆者はこの16歳の少女が人類のために貢献している姿に深い感銘を覚える。

 

このエッセイを書くにあたって、筆者はタイム誌とAQ誌のカバーストーリーのお世話になった。二人の執筆者に感謝したい。Time magazine ‘Now I Am Speaking to the Whole World.“ How Teen Climate Activist Greta Thunberg Got Everyone to Listen” Suyin Hayes, 2019.5.16、GQ , Greta Thunberg: ”To do your best is no longer good enough'”Stuart McGurk 2019.8.12 、スウェーデン環境省の土野恵実局次長には多数の参考資料を送ってもらいお世話になった。ありがとう。Dagens Nyheter,” I have met with politicians that started to cry” Alexander Urisman Otto ,2019.1.28、その他の主な参考記事は次のようなものだ。感謝したい。495 演説 “Greta Thunberg's 495-word UN speech points us to a future of hope ? or despair“,Richard Flanagan ,The Guardian 2019.9.30 ,The New Yorker ,”The Fifteen-Year-Old Climate Activist Who Is Demanding a New Kind of Politics “ Marsha Gessen 2018.10.2,The New Yorker, “The Uncanny Power of Greta Thunberg’s Climate-Change Rhetoric”Sam Knight 2019.2.4

 

 

フランス田舎暮らし ~ バックナンバー1~39


著者プロフィール

土野繁樹(ひじの・しげき)
 

ジャーナリスト。
釜山で生まれ下関で育つ。
同志社大学と米国コルビー 大学で学ぶ。
TBSブリタニカで「ブリタニカ国際年鑑」編集長(1978年~1986年)を経て「ニューズウィーク日本版」編集長(1988年~1992年)。
2002年に、ドルドーニュ県の小さな村に移住。