フランスの田舎で暮らす

土野繁樹の歴史散歩

米国憲法を守る移民:トランプ弾劾へ

 

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ドナルド・トランプ                   Spencer Platt/Getty Images

 

筆者はCNNテレビの実況中継で、米国大統領ドナルド・トランプの弾劾を調査する、下院情報活動委員会の11月の5日間のやり取りを見た。午後3時から毎日4,5時間、次々に展開される新証言に興奮し、アメリカを別の角度から見ている思いがした。

民主党は明らかに弾劾の証拠を集めたように見える。トランプが2020年秋の大統領選挙の最大の政敵、民主党ジョセフ・バイデンを追い落とすために、7月25日にウクライナ大統領に電話会談で調査を要請したが、やらなければ軍事援助は出さないと決めていたようだ。

この公聴会には12人が証言している。そのなかで最も衝撃的だったのは、ゴードン・ソンドランド駐EU大使の「トランプは直接関与している」という証言だった。また、次の証言も重要だ。マーシャ・イバノビッチ前駐ウクライナ大使の理由なき解任についての証言、ロシア専門家フィオナ・ヒル国家安全保障会議スタッフの激しいトランプ外交批判、アレキサンダー・ビンドマン国家安全保障会議スタッフのスパイ容疑への反論である。それと、トランプがウクライナの新大統領ウォロディミル・ゼレンスキーへ与えた圧力とその顛末をお伝えしよう。

 


11月13日から 21日まで開かれた下院情報活動委員会は民主党のアダム・シフ議員の司会で進行したが、宣誓証言だから偽証すれば刑務所が待っている。証言者はその覚悟でこの場に臨んだのだ。

以下、4人の証言とゼレンスキーの危機一髪を紹介する。

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トゥーンベリ:気候危機のヒロイン

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グレタ・トゥーンベリ「このまま放置することが、わたしには出来ない」The Guardian

 

拒食症、いじめ、そして復活

 

グレタ・トゥーンベリはストックホルムでオペラ歌手の母親と俳優の父親の間に生まれ、妹が一人いる。ピアノ、バレエ、演劇を学び、学校の成績も優秀だった。彼女は8歳のとき学校で、溶ける北極の氷、北極グマの運命、プラスチックで苦しむイルカの姿を見た。「わたしはこの光景に心を奪われた。このことばかり考えていた。そして悲しかった。これらの写真はわたしのアタマから消えなかった」と語っている。

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香港:民主派の反撃

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香港議会をとり囲む民主派の大デモ                 Wikipedia

 

100万人の香港市民が6月9日に「逃亡犯条例」の撤廃を求めて平和的デモを行ったとき、その要求は唯その一点だけだった。しかし今や、行政長官の直接選挙を要求する運動にまで発展している。この要求は運動の核心にある北京の共産党政権への不満が表面化したものだ。そのきっかけとなったのは、7月1日の夜.若い活動家の一群が香港議会(立法会)に侵入し、中国と香港の関係を称えるタブレットから中国名を消し、直接選挙を要求したからだ。

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司馬遼太郎とドナルド・キーン

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司馬遼太郎        文藝春秋   ドナルド・キーン      Wikipedia

 

中央公論社の二人の対談『日本人と日本文化』は、実に面白い本だ。初版は1972年だから、いまから半世紀前のものだが、内容はさすがである。雄大な構想で歴史と人物を描く司馬と、日本文学の極めてすぐれた研究者であるキーンが歴史的視点を入れながらテーマを語っている。

司馬はこの本の「はしがき」の巻頭で、キーンとの関係は「あの戦争を共同体験したという意味において互いに戦友であった」と言う。この戦友は敵味方を超える、歴史家のそれである。その上、日本文化とは何かが二人のテーマだったから、これほど充実した対談になったのだろう。

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ドナルド・キーンさん ありがとう

 

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縁台で読書するキーンさん ドナルド・キーン「お別れの会」

 

ドナルド・キーン自伝』は彼の84歳の作品である。ニューヨークのブルックリン生まれの天才的少年キーンは、18歳のとき『源氏物語』の翻訳を読んで感激する。その頃、1940年夏、ヒトラーの欧州制覇が破竹の勢いで続いていた。その絶望的な時代に、彼はアーサー・ウェイリー訳の「夢のように魅惑的な」小説を発見する。これは彼がのちに、日本の豊かな文学と文化の紹介者として“世界と日本の間の巨大な橋”を架ける、前人未踏の仕事の第一歩であった。筆者はこの本は文学者の書いた自伝の最高峰の一冊だと思う。

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米中激突 : ニューヨーク・タイムズ紙が伝える

フィリップ・P・パン アジア総局長     写真撮影ブライアン・デントン

西側は中国のアプローチがいずれ失敗するだろうと思っていた。
しかし、それは見事に当てが外れた。そして、今なお待ち続けている。

 

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過去のパワー:長征の制服を着る航空宇宙界の労働者

莫干山会議

 

毛沢東が亡くなり、中国の未来が不確かだった頃、経済学を専攻する学生グルーブが、上海の郊外にある山荘に集まった。それは、共産党に率いられた中国が産業界の巨人になり、破竹の勢いで世界を再編する以前の、遥か昔のことである。莫干山の竹林で行われたその会合で、若い学者たちは「いかにして、西洋に追いつくか」という宿願のテーマに取り組んだ。

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マクロンを救え、ヨーロッパが危ない

 

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暴徒によって破壊されたフランスの象徴、マリアンヌ像                   AP

 

エマニュエル・マクロンはヨーロッパの救世主だった。リベラル・デモクラシーの旗手として、ポプュリズムの流れに敢然と立ち向い、EU再興のヴィジョンを掲げる、フランスの希望の星だった。その若さと知性とカリスマで、21世紀のジョン・ケネディとも言われた。筆者も大いなる期待をもって、この連載エッセイで「マクロン大統領の実像:救国の人か、蜃気楼か」(2017年11月28日号)を書いた。

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